春休みの課題図書

学年末試験がようやく終わりましたね。
一つ山を乗り越えたら、また次なる山が見えてきました。
そう、春休みの課題図書です。

卒論の準備もあるのに課題図書か!というみなさんの声が聞こえてきそうですので、今回は読みやすい本をそろえてみました。

まずは東野圭吾『人魚の眠る家』。


東野圭吾、実は国語科の教員にはあまり人気がないんですよね。教員曰く「だって東野圭吾、ストーリーが面白いだけじゃん!」。ストーリーが面白ければいいじゃない、とみなさんは思うかもしれませんが、ストーリーに還元できないところにこそ小説の面白さがあるとついつい私たちは考えてしまうんです。ですがこの『人魚の眠る家』はそんな国語科教員でもおすすめの小説です。主人公は離婚の危機にある夫婦、この夫婦のもとに娘がプールでおぼれたという一報が入ります。娘は医師から脳死を宣告されてしまうのですが…。

考えてみれば東野圭吾の小説って心と身体の関係とそのずれを一貫してテーマに選んでいます。妻の魂が娘に入り込んでしまう『秘密』や、脳移植を受けて人格が変わっていてしまう『変身』などなど。その視点から『人魚の眠る家』を読んでみても興味深いかもしれません。もちろんストーリーが面白いことは、折り紙付き。楽しんでくださいね!

2冊目は米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』。


米原万里さんは、腕利きのロシア語同時通訳者。同時通訳者は寿命が短いと言われています。一つのパソコンにWindowsとMacを無理やりインストールして二つ同時にフル稼働させているようなものですから、体にも相当負担がかかるそうです。実際、米原さんも56歳の若さで亡くなってしまいました。米原さんは子どものころチェコのプラハで過ごしたいわゆる帰国子女です。その経験をもとに書かれたのがこの『オリガ・モリソヴナの反語法』です。プラハの学校に通う小学生志摩は、舞踊教師オリガ・モリソヴナに圧倒されます。生徒のダンスを見たオリガが「美の極致!」というとそれはほめことばではなく、強烈な悪口。だから『オリガ・モリソヴナの反語法』というわけです。物語は大人になった志摩が、オリガの不思議な言動の謎を解いていくというミステリー仕立てになっています。その謎を解いていくうちに志摩は、オリガを翻弄したソ連という国家にぶち当たることになります。今まさに、ソ連の後継者であるロシアがウクライナを侵攻していますが、そのことも考えあわせて読んでみてください。昔、この小説を読んで感動した生徒が、ロシア語・ロシア文学科に進んだことがあります。みなさんもじっくりとこの物語と向き合ってみてください。知らなかった世界が見えてくるかもしれません。

さて最後は、東畑開人『聞く技術 聞いてもらう技術』。


東畑さんはカウンセラーで、カウンセラーは人の話を聞くことが仕事です。この本は、聞くにも技術があり、聞いてもらうにも技術がいるという、いわゆる小手先の「技術」について語る実用書でありながら、聞くこと、聞いてもらうことの不思議さに迫る哲学書でもあります。しかも本当にやさしい語り口で、すらすら読めてしまうのです。こんなやさしい言葉で哲学を語れるのかと、びっくりしてしまいます。上質の実用書にして、最良の哲学書。毎日の生活の中で簡単に実践できること(たとえば話を聞いてもらうには、いっしょにトイレにいってみよう、黒いマスクをつけてみようなどなど)ばかりですので、みなさんもぜひ人の話を聞き、人に話を聞いてもらいましょう。

ではみなさん、よい春休みを!